東北・北海道支部 だより(2024年度市民講演会)
東北・北海道支部 令和6年度市民講演会が2024年11月9日(土)に東北大学片平キャンパス金属材料研究所2号館講堂とオンラインのハイブリッドで開催されました。今回は,「フュージョンエネルギーとは?」と題して,核融合工学・原子力工学の専門家である東北大学工学研究科の宍戸博紀先生を講師としてお招きしてフュージョンエネルギー(核融合エネルギー)の基礎について講演していただくとともに,特別イベントとして,フランス核融合炉建設現場(ITER機構)との生中継を行いました。
東北・北海道支部の市民講演会のハイブリッド開催は,昨年度からの試みです。今回は,関連ウェブサイトへの案内掲示,低温工学・超電導学会員へのメール配信,昨年度の参加者へのメール配信の他,仙台市地下鉄の仙台駅,長町駅,北仙台駅の3駅の地域情報ボードへのポスター掲示を行い,市民講演会の宣伝を行いました。最終的な参加者は,81名(オンライン55名,現地26名)となりました。
宍戸先生の講演は「フュージョンエネルギーの基本から開発の行く先まで」と題したもので,講演時間の多くは「フュージョン(核融合)への誘い ~基本から開発の歴史~」に割かれました。ここでは,核融合エネルギーと核融合炉開発の歴史(1920年代の恒星での核融合反応の発見,1950年代のプラズマ閉じ込め装置開発,1968年のソ連のトカマクでの画期的な成果,1980年代の世界三大トカマクの建設,1985年の米ソ首脳会談から始まる現在のITER計画)や,核融合反応の原理,核融合発電の利点(エネルギー出力と燃料資源),原子力発電(核分裂反応を用いた原子炉)との違い,超伝導マグネットを始めとする核融合炉の構成の概要を説明していただき,市民の方や初学者の方にも非常にわかりやすい内容でした。続いて「フュージョンのいま ~実現の目処と方向性~」において,高磁場・放射線環境・高熱負荷・極低温の組合せである核融合炉では,既存の技術の流用が容易ではなく,核融合炉開発がチャレンジングであることが紹介されました。宍戸先生の講演スライドはオンラインツールを用いて作成されており,またリアルタイムで聴講者からの質問が受け付けられるツールを用いて,都度,丁寧に質問に対応していただくなど,普段,学会等では目にしない先進的なプレゼンでした。
特別イベントであるITER機構との中継では,ITER機構で働く三好康之氏,岡山克巳氏,泊瀬川晋氏の3名の日本人研究者にITERの建設現場の全体像,装置構成,組立の現状を,実際の装置をリアルタイムで映しながら説明をしていただきました。ITERのトカマク装置本体の外からの映像では,既に現場に運び込まれているセンターソレノイドやトロイダル磁場コイルが大型のクレーンを用いてクライオスタット内にインストールされることが説明されました。またクライオスタット内部の映像で既に設置されている下部のポロイダル磁場コイルおよびトロイダル磁場コイルの台座を見ながら,各超伝導コイルの設置手順やクライオスタットの溶接手順についての説明がなされました。運営側の不手際で音声接続で問題があり,十分でなかった部分はありましたが,ビデオは明瞭に届いており,市民の方々にも臨場感は伝わるものにはなったと考えております。
アンケートの結果,地下鉄駅の地域情報ボードのポスターを目にしての参加者はほとんどいらっしゃらなかったようで,市民の方々への宣伝方法については課題が残りました。宍戸先生の講演では,今が核融合炉開発の大きな転換期であること(政府主導の開発に加えて民間主導の開発の流れができた),そして核融合がもたらす未来と題して発電以外での魅力についても説明していただく予定でしたが,十分な時間を運営側が設定できておらず,基礎の説明のみとなってしまいました。アンケートでも講演内容は非常にわかりやすくて良かったが,将来展望や専門的な内容についても是非聞きたかったとのご意見を多く頂戴いたしました。また,ITERとの生中継ではリアルな映像が見れてよかったという感想をいただいた一方で,運営側が音声トラブルに十分に対応できなかった問題もあり,不満が残ったとのご意見もいただきました。今回の運営では,受付設置の不備やハイブリッド講演への不慣れな対応など,参加者の皆様には不快な状況となってしまった面が多々あり,お詫び申し上げます。
最後に現地およびオンラインで参加していただいた市民および会員の皆様に改めて御礼申し上げます。また,講演をいただいた宍戸先生,フランス現地で土曜の早朝にもかかわらず中継対応していただいた三好様,岡山様,泊瀬川様を始め,お手伝い頂いた関係者の皆様に感謝いたします。
(東北大 淡路 智,伊藤悟,髙橋弘紀)
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宍戸先生の講演 |
ITER機構との生中継 |
2024年度 市民講演会のご案内
テーマ | : | フュージョンエネルギーとは? |
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フュージョンエネルギーや核融合発電という言葉を最近聞いたことはありませんか?海水中などに資源が豊富に存在しており、さらに二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物が発生しないため、環境に優しい安全な魅力あるエネルギー源と言われています。では、原子力発電や太陽光発電とは何がちがうのでしょうか。少しでも興味があればご参加ください。なにか得るものがあるはずです。
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主 催 | : | 低温工学・超電導学会 東北・北海道支部 |
共 催 | : | 東北大学金属材料研究所 |
日 時 | : | 2024年11月9日(土)14時00分〜15時40分頃 |
会 場 | : | 東北大片平キャンパス 金属材料研究所 2号館講堂 対面とZoomのハイブリッド |
次 第 | ||
14:00 | : | 開会、主催者挨拶 低温工学・超電導学会 東北・北海道支部 支部長 淡路 智(東北大学教授) |
14:05 | : | 講演「フュージョンエネルギーの基本から開発の行く先まで」
講師:東北大学大学院工学研究科 宍戸 博紀 助教 |
15:10 | : | 特別イベント
フランス核融合炉建設現場(ITER機構)との生中継 |
15:40 | 頃 | 終了 |
参加費 | : | 無料 |
申込先 | : | |
オーガナイザー |
: | 伊藤 悟(東北大工)、高橋 弘紀(東北大金研)、淡路 智(東北大金研)
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問合先 |
: | 東北大学金属材料研究所 淡路 智 電話:022-215-2151 e-mail:awaji [@] tohoku.ac.jp |
印刷用ポスター(A4)のダウンロードはこちらから