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平成 29 年度 東北・北海道支部/第1回材料研究会 合同シンポジウム (東北・北海道支部だより)

2017年度 東北・北海道支部研究会/第1回材料研究会合同シンポジウムが2017年8月7日(月)~8日(火)に作並温泉一の坊にて開催された。今年度は,昨年度と同様に東北・北海道支部と材料研究会との合同研究会であり,今回は高温超電導線材と応用の両方の観点から「高温超電導コイルの安定性と保護技術」をテーマとし,7件の講演を行った。参加者は講師含め21名であった。

 1日目は,東北・北海道支部長の挨拶の後,大学・国立研究所の先生方やマグネットメーカーの方達による,高温超電導コイル設計者の視点からの高温超電導コイルの安定性と保護技術に関する講演が3件行われた。最初に,塚本修巳氏(上智大)により「高温超電導コイルのクエンチによる損傷とその保護」と題して,クエンチ保護の必要性から,高温超電導コイルにおけるクエンチの原因・クエンチによる損傷・クエンチ保護法について講演いただいた。非絶縁コイルと絶縁コイルの長所と短所を述べられ,回転機,SMESやMRI等磁界変動を必要とする機器ではコイルを絶縁線で構成する必要があり,安定な定常運転にはコイルのクエンチによる損傷を防ぐためにクエンチ保護が必要であると説明された。高温超電導コイルのクエンチの主要原因は線材の局所的な劣化であるとし,線材作製時に出来た欠陥は線材事前検査で排除されるため,コイル製作時,励磁時の過渡の電磁力,繰り返し疲労が原因の局所的欠陥の発生が予期せぬクエンチを引き起こしているとした。コイルのクエンチによる損傷は,ホットスポット領域での線の温度上昇に伴う熱膨張による機械的損傷が原因であることを実験結果に基づき示した。クエンチが生じたときの損傷を防げれば,運転温度を下げることで,安定な運転が可能な領域が見いだせることを示した。さらに,抵抗ショートを用いたクエンチ保護法を提案し,クエンチに伴う損傷を防げるクエンチ検出電圧の上限を引き上げることができることを示した。2件目では,石山敦士氏(早稲田大)が,「無絶縁コイルの電磁現象と安定性・保護」と題して,無絶縁コイルの開発意義,開発課題とその対策,世界の開発動向について解説した。高温超伝導マグネット開発には,髙強度・髙電流密度・高磁場・髙(磁場)安定性・高熱的安定性の5つのHigh(5H)が重要である。無絶縁コイル巻線方式は,隣接線材間で銅安定化層を共有できるため,高電流密度化の可能性があるとともに,局所的線材劣化等発生時に,電流が劣化部を避けてコイル巻線層間方向に転流するため,ホットスポットの形成が抑制され,高い熱的安定性が確保される可能性がある。このため,無絶縁コイルは,本来二律背反の関係にある高電流密度化と高熱的安定化を両立出来る技術として期待されている根拠を解析結果と実験結果により説明した。さらに,世界の開発動向として,S. Hahn氏(NHMFL,現Soul National University)らが,無絶縁コイル巻線方式を用いた9Tインサートコイルによって,40T励磁に成功したことを紹介した。3件目は,宮崎寛史氏(東芝)が「高温超電導コイルの安定性と保護」と題する講演を行った。高温超電導コイルの保護方法案として,熱暴走限界を正確に予測し,コイル温度をモニターすることで未然防止する方法を説明した。正確に予測するためには,コイル電流-電圧特性の正確な予測や線材から冷凍機まで伝熱板等を介して適切な冷却パスで確実につながっていることが重要となる。実際に線材諸元が異なるREBCO線材を用いた2つの含浸コイルを用いて,伝導冷却中にてコイル初期温度を30 Kから60 Kまで変化させて通電試験を実施し,初期温度や線材構成の違いによらず熱暴走電流が誤差3%未満の精度で定量的に予測できることを実証した。また,新しいコイル保護方法として,温度上昇時,高温超電導コイル内部で発生するフラックスフロー抵抗をコイルと並列に接続した低抵抗体へ分流させることで,自動でコイルへの通電電流値を下げるコイル保護法を提案し,実際の伝導冷却下における自動消磁動作の検証試験を行った結果,コイル温度の上昇時,REBCOコイルに流れる電流値を約34%まで自動的に消磁することに成功したとの説明がなされた。次に柳澤吉紀氏(理化学研究所)は「高磁場高温超電導コイルにおける熱暴走-REBCOコイルとBi-2223コイルの比較-」について講演した。これまでに関わってきた開発において試験されたNMR内層コイルを想定した高温超電導コイルの高磁場中における劣化と熱暴走の事例をまとめ,どのような条件で熱暴走が起きるのか,「高磁場高温超電導コイルの熱暴走の実際」が説明された。高磁場高温超電導コイルの熱暴走は,電磁力による局所劣化部の定常発熱によって起こり,REBCOは応力集中モードで,Bi-2223は均一な引張りモードで劣化が起きる。REBCOは短く(数mm~数十mm),Bi-2223は長い(数百mmオーダ)。定常発熱で熱暴走するため,MQEではなく,定常的に何ワット発熱しているかが実運転におけるクライテリアとなり,REBCOでは,コンマ数Wで熱暴走が起きている。さらに,熱暴走の数値解析を用いて,高磁場HTSコイルの熱暴走発生の条件を体系化し,実際の熱暴走事例と照らし合わせながら,実コイルにおける運転指標の求め方が説明された。REBCO(Cu層40-50 mm)は,冷媒の冷却効果が得られない系では,磁場に関わらずコンマ数W~1 W程度で熱暴走が起きる。一方,Bi-2223は低磁場中では,臨界温度が高く熱暴走発生熱量が数Wと大きいため,熱暴走は極めて起きにくいが,20T以上の高磁場中では,熱暴走発生熱量が0.5 W以下(因みに,REBCOは0.2 W以下)となるので十分な注意が必要であるとの説明があった。
1日目の講演はこれで終了し,温泉で軽く汗を流した後,懇親会にて講師の先生方と参加者とで交流を深めた。懇親会後に有志での2次会が行われ,宮城の日本酒をたしなみながら超電導研究についてナイトセッションが行われた。

2日目は,高温超電導線を製造・販売している国内線材メーカーから講師をお招きし,線材メーカーの視点からの高温超電導コイルの安定性と保護技術に関する講演が3件行われた。最初に,藤田真司氏(フジクラ)により「Y系超電導コイルのクエンチ挙動」と題して,自社製Y系超電導線材を用いたY系超電導コイルの開発に関する紹介と,その中の5T-426kJ REBCOマグネットの設計時のクエンチ保護方針とクエンチ保護の可能性についてご講演いただいた。REBCO線材の特徴とFujikuraにおけるREBCO線材開発に関する紹介があり,量産線材の長手臨界電流分布の一例として,4 mm幅導体で600 m長に渡り均一な臨界電流値(226 A@77 K, self-field)が示された。また,REBCO線材のクエンチ実験から安定化層(ラミネートCu層)が厚い方がMQEが大きく,NZPVが遅くなることを示し,きわめて熱的安定性が高く熱的擾乱ではクエンチしにくいことと,ホットスポット的なクエンチが発生すると超電導領域が広がらないため発生電圧が極めて小さくクエンチ検出が困難であることを示した。さらに,自社開発のφ200 mm室温ボアを有する5T-426kJ REBCOマグネットの詳細を示し,保護のための安定化層の厚さを検討するために外部保護抵抗によるエネルギー回収断熱条件で上昇温度を見積り,クエンチ保護可能な安定化層厚さを0.3 mmとした説明がなされた。最後に加速器用高温超電導マグネットのクエンチ検出・保護検討を行った結果,100 mV程度を100 ms程度で検出できればコイル劣化は生じないことを小型コイルによるクエンチ実験により示した。2件目では,高木智洋氏(古河電工)が,「伝導冷却REBCOコイルにおける銅安定化層の効果」と題して,ホットスポット由来の電圧の検出法として絶縁導線を高温超電導線と共巻きにする共巻きコイル法の有用性と伝導冷却コイルの有効なクエンチ対策となる安定化層(保護層)の役割とその効果について講演した。内径φ120 mm,インダクタンス1.1 mHのダブルパンケーキコイル(ターン数35×2)を用いて共巻きコイル法による1 mV未満のクエンチの前兆電圧検出に成功し,共巻きコイル法により,クエンチを未然に防げる可能性を示唆した。また,クエンチによる不可逆的なコイルの損傷形態として線材の座屈を取り上げ,局所的な熱応力,すなわち急峻な熱勾配の形成が原因で生じていると考えられるため,安定化層が100 mmのコイルは40 mmのそれと比べて,同じ条件のクエンチに対してコイル内に生じる熱勾配を著しく低下させることを示し,クエンチの悪影響抑制における銅安定化層の役割が大きいことを説明した。3件目では,林 和彦氏(住友電工)が「Bi2223線材の特性とクエンチ保護技術」と題し,自社製の加圧焼成法を用いたBi-2223線材(DI-BSCCO線材)のラインナップとその特性,ならびにDI-BSCCO線材を用いて小型コイル,大型レーストラックを作製し,クエンチ検出や保護実験の成果について講演した。DI-BSCCO線材は,長尺かつ均一性に優れ,Ic-B-T(臨界電流値の磁場・温度依存性)特性はフラックスクリープ&フラックスフローモデルで近似が可能であり,コイルの温度‐発熱分布を精度良く計算で求めることが出来ると説明された。また,銀シース線材であり,n値も20程度とそれほど大きくないことから,クエンチに至る余裕が大きく,コイル応用では冷却パスを確実に確保し,熱抵抗を小さくして,発熱と冷却のバランスが維持できれば,クエンチは起こり難いと言える。とはいえ,緊急消磁が必要な場合をはじめ,冷凍機停止,断熱層の真空破壊,過通電,高速励消磁や交流運転時の交流損失等で熱擾乱が発しした場合,特に蓄積エネルギーが大きい場合は,クエンチ検出,ならびに保護が必要になる場合があると説明された。
全ての講演で非常に活発な質疑応答が行われ,参加者達の非常に熱心な姿がとても印象に残った研究会であった。高磁場マグネット開発では,高温超電導コイル技術が必須であることから,当分野の研究者達が一同に会して意見交換ならびに懇親を深められたことは非常に有意義な会合であったと言える。二日目は,朝から大雨に見舞われ,仙台近郊の一部のJR線で大幅にダイヤが乱れる中,会場からの最寄り駅となる作並駅がある仙山線は運転を見合わせることなく運転し続けてくれたことで,我々参加者が無事に帰路につけたことも良い思い出である。

 

 

図1 研究会会場で撮影した集合写真。

 

図2 研究会の様子。ご講演されている石山先生(右上)と熱心に聴講する参加者。

 

(東北大学 宮城大輔,淡路 智)


平成 29 年度 東北・北海道支部/第1回材料研究会合同シンポジウムのご案内

テーマ
高温超電導コイルの安定性と保護技術
日 時
2017年 8月 7日(月) ~ 8日(火)
会 場
作並温泉一の坊(宮城県仙台市青葉区作並字長原3)http://www.ichinobo.com/sakunami/
主 催
低温工学・超電導学会 東北・北海道支部
プログラム
【1日目】8月7日(月)
 
13:30
13:35
 
開会の挨拶
東北・北海道支部長
 
13:35
14:25
 
高温超電導コイルのクエンチによる損傷とその保護
塚本修巳(上智大)
 
14:25
15:15
 
無絶縁コイルの電磁現象と安定性・保護
石山敦士(早稲田大)
 
15:15
15:30
 
休憩
 
15:30
16:20
 
高温超電導コイルの安定性と保護
宮崎寛史(東芝)
 
16:20
17:10
 
高磁場高温超電導コイルにおける熱暴走
- REBCOコイルとBi-2223コイルの比較 -(仮)

柳澤吉紀(理研)
 
18:30
20:30
 
夕食(懇親会)
 
【2日目】8月8日(火)
 
8:40
9:30
 
Y系超電導コイルのクエンチ挙動
藤田真司(フジクラ)
 
9:30
10:20
 
伝導冷却REBCOコイルにおける銅安定化層の効果
高木智洋(古河電工)
 
10:20
10:30
 
休憩
 
10:30
11:20
 
Bi2223線材の特性とクエンチ保護技術(仮)
林 和彦(住友電工)
 
11:20
11:50
 
総合討論
淡路 智(東北大)
宮城大輔(東北大)
 
11:50
12:00
 
閉会の挨拶
材料研究会委員長
参加費
 2,000円(資料代)
宿泊
13,000円(1泊2食)(予定)
交通
作並温泉一の坊HP(http://www.ichinobo.com/sakunami/)参照
オーガナイザー
宮城大輔(東北大)、淡路 智(東北大)
申込方法
参加を希望される方は、氏名、所属、<宿泊><懇親会>の有・無 を添えて7月5日(水)までにE-mailで下記へお申し込みください。
申込・問合せ先
東北大学 宮城大輔 E-mail: dmiyagi [@] ecei.tohoku.ac.jp  Tel/Fax: 022-795-7043
備考
講義演題は若干変更になる場合があります。