過去の市民講演会

東北・北海道支部 だより(2010年度市民講演会)

 2010年度東北・北海道支部市民講演会は、11月6日(土)午後に青森市文化会館4階会議室において開催されました。今回初めて青森市で市民講演会を開催するにあたり、2008年洞爺湖サミットの関連会合の一つ「エネルギー大臣会合」の誘致に象徴される環境・エネルギー技術による地域活性化への取り組みと、12月4日に待望の東北新幹線全線開通を迎える青森の今に焦点を当て、弘前大学と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)から3名の講師をお招きし、「北日本のエネルギーと交通新時代」をテーマに第一部と第二部にわたりお話しいただきました。

 第一部では、最初に弘前大学北日本新エネルギー研究センター(青森市)教授で新エネルギー研究所長の神本正行先生から「温暖化緩和技術としての再生可能エネルギーへの期待」と題して、温暖化緩和技術として期待の高い太陽や風力、地熱等の再生可能エネルギーの利用が、人類の年間一次エネルギー消費量400エクサ・ジュール(1018J)と対比するとわずかな量にとどまっている現状と、今後も導入の妨げとなるバリアの克服に向けた取り組みを紹介していただきました。講演は、14%のソーラーセルで一次エネルギー消費量を賄うには広大なサハラ砂漠の半分を覆う巨大な面積が必要となることや、施設建設に投入されるエネルギーと得られるエネルギーの収支の話など具体的な数値を随所に盛り込んだ平易に解説で、エネルギー問題を改めて考えてみる大変良い機会となりました。

 続いて、弘前大学 名誉教授で同大学学長特別補佐(北日本新エネルギー研究センター担当)の南條宏肇先生から「再生可能エネルギーと地域」と題して、化石燃料に比べて低密度で高コストな再生可能エネルギーを如何にして地域再生へつなげていくかという観点から、地域の特色に根ざした産業創成に向けた発送の転換と基盤技術の革新的転換の必要性など具体的な製品作りには地域との連携、さらにはエネルギー地産地消へつながる取り組みの一端を垣間見ることができ、また、津軽海峡が風力に比べて30倍のエネルギー密度を持つ潮流発電の好立地であると同時に日本でも有数の好漁場でもあるというお話しには、まさに新エネルギー施設の立地の難しさを痛感させられました。

 第二部では、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)鉄道事業本部 電気ネットワーク部課長 電力技術グループリーダーの林屋均様から「新幹線の高速化とそれを支えるエネルギー供給技術」と題して、世界に誇る高速鉄道である新幹線が、どのようにして高速で快適な旅をしかも環境に優しく提供しているかというお話しをしていただきました。講演は、10両編成の新幹線が150km、ほぼ1時間の区間を走行するのに要する電気料金を問うクイズに始まり(正解:約10万円)、他の輸送機関に比べて新幹線の優れた省エネルギー・低炭素排出特性をまず実感させられました。お話しは、高速鉄道特有の波動伝播による架線給電の難しさから、長距離区間にわたって切れ目無く給電する電力供給システムまで多岐にわたり、講演1ヶ月後に迫った新幹線青森開通を迎えるに相応しい非常に興味深い内容でした。また、講演の最後には林屋様も開発に携わられたご経験のある超電導リニアのお話で二部3時間半にわたる講演会を締めくくっていただきました。

 今回の市民講演会は、開催地に支部役員のいない初めてのケースでしたが、青森市役所をはじめ関係の皆様に広報の面でご協力いただき、冬将軍到来前の行楽日和の土曜日にも関わらず一般市民の方を含め26名の参加者がありました。ご協力いただいた皆様に紙面を借りて厚く御礼申し上げます。

 東北・北海道支部では、発足当初から一般市民・青少年に対して低温技術に限らず様々な科学技術、産業応用技術への知識と理解を広め、工学への興味を育むことを通じて社会貢献を果たすことを目的として、主に本部交付金を財源として市民講演会を開催してきました。公益法人として、本事業の果たす役割は極めて重要であると考えています。


(写真説明:講演会風景)
(山形大学 中島健介)


2010年度 市民講演会のご案内

 低温現象や超電導技術は,日常生活においてはまだまだ馴染みの薄いものです。
 2011年度東北・北海道支部市民講演会は低温に関する“輸送”をキーワードとして,今後のエネルギーシフトで注目されるバイオディーゼル燃料と,開通に向けて注目されているリニアモーターカーの講演を開催いたします。お気軽にご参加ください。

『市民講演会』

テーマ
環境対応と高速化の次世代輸送技術
日 時
2010年11月6日(土)
会 場
秋田市民交流プラザALVE(アルヴェ)4階市民活動センター洋室C
秋田市東通仲町4番1号 JR秋田駅東口直結徒歩3分
参加費
無料
問合先
山形大学工学部 中島健介
e-mail:nakajima@yz.yamagata-u.ac.jp
Tel:0238-26-3291
プログラム
  13:30
支部長 開会挨拶
渡辺和雄(東北大学)
  13:40
第一部
     
「温暖化緩和技術としての再生可能エネルギーへの期待」
 神本正行(弘前大学教授 北日本新エネルギー研究センター長)
       
講演要旨:
・再生可能エネルギーの現状
 温暖化緩和技術として期待の高い太陽や風力、地熱等の再生可能エネルギーは、世界的にみれば十分存在します。しかし、最近の導入量の伸びは大きいものの、様々なバリアがあり現在のところ全一次エネルギー供給のわずかを占めているに過ぎません。これらのバリアとそれを克服するための取組について、まず紹介します。
・再生可能エネルギーの賢い使い方
 再生可能エネルギーの導入量をさらに増やすための方策を、エネルギーシステムの観点から提案します。パッシブで単純な使い方と様々なエネルギーの統合化、そしてそれぞれの地域に適したエネルギーシステムの構築です。
・地域における取組の重要性
 最後に、地域における取組が地球規模の課題解決に大いに貢献するということを指摘したいと思います。

     
「再生可能エネルギーと地域」
 南條宏肇(弘前大学 学長特別補佐 北日本新エネルギー研究センター担当)
       
講演要旨:
・拡がる地域と中央の格差
 最近地域間の格差は開く一方で、青森県の県民所得は全国平均の4分の3、有効求人倍率も全国の半分以下で、県外への若者人口流出は増加する一方です。このままでは地方は崩壊してしまいます。再生可能エネルギーは地域再生の切り札になり得るかについて述べます。
・再生可能エネルギーは化石燃料の代わりになり得るか
 化石燃料は密度が高くまた低価格でもあり、エネルギー源・原材料として生産性も高い。その化石燃料の代替エネルギーとしての再生可能エネルギーが高くつくのはやむを得ないことです。発送の転換、基板技術の革新的転換が必要です。これらの転換について提言をします。
・地域における再生可能エネルギーの展開
 現在地域で展開しつつある再生可能エネルギーによる産業創成事業の実態について紹介します。

  15:20
第二部
     
「新幹線の高速化とそれを支えるエネルギー供給技術」
 林屋 均(東日本旅客鉄道(株)電気ネットワーク部 電力技術グループ 課長)
       
講演要旨:
 今年12月に東北新幹線の八戸~新青森間が開業します。これにあわせて、来年3月にはE5系新幹線「はやぶさ」が運転を開始し、将来的には東京~新青森間を最高時速320キロ、最短3時間5分で結びます。しかし、新幹線が優れているのは、その快適性や高速性だけではありません。その優れた環境性も、新幹線の特徴の一つです。
 本講演では、鉄道の優れた環境性について、様々なデータに基づいて紹介するとともに、それを支える新幹線への電力供給システムについて、分かりやすく解説します。列車が加速したまま高速走行し続けるための切替開閉器技術、大電力を使って走行する新幹線による電力会社の電力ネットワークへの影響を小さくするためのRPC(電鉄用単相電力補償装置)技術、高速走行を行ってもトロリ線とパンタグラフの離線・アークを最小限にとどめるための電車線技術など、世界に誇る高速鉄道技術が、その安全で快適な高速走行を支えているのです。
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