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令和元年度 東北・北海道支部研究会 第3回材料研究会合同 & 第18回高温超伝導バルク材「夏の学校」  (東北・北海道支部だより)

 東北・北海道支部/第3回材料研究会合同研究会&第18回高温超伝導バルク材「夏の学校」in 鬼怒川温泉が,8/19-20の1泊2日の日程で,鬼怒川温泉ホテルニューさくらにおいて開催された。本会は「超伝導バルク体の産業応用に向けた最新の動向」というテーマで11件の講演があり,学生17名,一般・教員15名の合計32名の参加があった。

 開会にあたり,東北・北海道支部長の藤代氏(岩手大)より挨拶があり,合同研究会及びバルク材夏の学校の概要等について説明があった。引き続き講演が開始され,1日目は6件の講演があった。講演の概要は以下の通りである。
「超電導バルク(QMG)における材料開発とその応用」成木氏(日本製鉄) RE系バルク体の歴史や作製方法,大型化や高特性化に向けての技術開発等が説明された。また,近年取り組んでいるMSR-QMGリング補強を施したバルク材による15T着磁や,NMR応用,フライホール応用など,材料開発の視点からバルク材の応用について紹介された。
「高温超電導バルクの基礎と応用」村上氏(芝浦工大)バルク材発見当初からの歴史について,様々な失敗や発見などのエピソードを交えながら説明された。また,バルク材の応用には強度が重要な問題であり,樹脂含侵や形状記憶合金リングを用いることが有効である。また,着磁過程で発熱に伴うフラックスジャンプの問題があり,試料にメタルウッドを埋め込む手法が有効であることが説明された。
「多結晶型超伝導バルク材の組織制御と応用に向けた課題」山本氏(農工大) 初めにREBCO,MgB2,鉄系バルク体について,結晶構造やピン止め点の違いなどが比較された。続いて,MgB2の作製に関して高圧合成や常圧下浸透法等の組織制御により特性を向上できることが説明された。近年,Mg気相輸送法(MVT法)を提案し,従来法に比べて2倍のコネクティビティーやJcが得られることが説明された。また,試料内部の欠陥を非破壊で評価する手法として,室温において複数個所での抵抗測定と計算機シミュレーションにより,欠陥の個所を検出できることを紹介した。
「超電導バルク体と超電導コイルによる磁気軸受のフライホイール蓄電装置への応用」長嶋氏(鉄道総研) 鉄道総研について紹介があった後,リニア新幹線向けの高温超伝導コイルの開発,及びフライホイール蓄電システム用の超伝導磁気軸受けについて説明があった。従来の低温超伝導線材を用いる場合と比べ,液体ヘリウムを用いないため装置が小型・軽量になるとともに,製造コスト及び運用コストが低減できるメリットがある。手作りでコイルを製作し,通電試験や加振試験が行われたことが紹介された。次に,回生エネルギーを貯蔵するためのフライホイールの磁気軸受けについて説明があった。超伝導バルク材と超伝導コイルの組み合わせにより,電磁力を大幅に改善することができ,貯蔵エネルギーを増大できる。また,バルク材を大型化することにより,電磁力を増大できることが説明された。最後に,これまでの実機試験や今後の展開について紹介があった。
「超電導材料を用いた電気モータの輸送機器への応用」寺尾氏(東大) 超伝導技術を用いたモータや発電機について,導入のメリットやこれまでの成果等が紹介された。次に,CO2排出の問題から,航空機への電気推進方式の導入が検討されている背景が説明された。実用化に向けて,出力密度やバッテリーの高密度化,安全性・信頼性の向上が重要である。次に,航空機用超伝導モータの基礎,及び研究開発例が紹介された。最後に,超伝導電動推進システムとして,シーメンス社のCEPSやNASAのN3-Xが紹介された。
「超電導バルク体を用いた磁気浮上応用システムの開発」佐々木氏(八戸高専) バルク材と永久磁石を用いた磁気浮上型超伝導免振装置について,原理や免振性能等について説明があった。永久磁石をハルバッハ配列にしたり,バルク材を両サイドから挟むダブルレールにしたりすることにより,浮上力特性を向上できることを明らかにした。また,同手法を応用した磁気浮上回転エネルギー貯蔵装置が検討しており,バルク材の両サイドで永久磁石を回転させることに成功した。なお,同講演は若手研究者の発表として依頼したものである。
 初日の最後には,学生による研究発表を行った。岩手大学,青山学院大学,芝浦工業大学,東京農工大学,足利大学から発表があり,司会進行も学生が行った。
 懇親会(夕食)は会場の関係で,学生と一般・教員が別の部屋となったが,学生同士の交流を深めることができた。夕食後,二次会を開催し,学生と教員・一般の分け隔てなく,交流を深めることができた。  

 2日目は5件の講演が行われた。
 特別講演「超伝導磁気浮上工具を用いた研磨技術」小田部氏(九工大) バルク材のピン止め力による磁気浮上を応用した超電導磁気浮上工具(SUAM,superconductive assisted machine)が紹介された。回転工具が浮上しているため,通常加工では困難である内部切削ができるメリットがある。実際に固定砥粒や遊離砥粒による研磨実験の動画が紹介された。また,同装置をモデル化してFEMによる数値解析を行い,特性向上に向けた検討を行っている。現在,新しいSUAM装置として,バルク材の代わりにJcの高いコート線材を用いることを検討している。なお,本講演は,九州・西日本支部との交流として実施されたものである。
「高騰するヘリウム時代の無冷媒バルク超電導NMR磁石のインパクト」仲村氏(理研) 近年,ヘリウムの枯渇問題が深刻化しつつあり,価格の高騰や安定供給等が懸念事項となっている。この問題について,ヘリウムの用途や生産,流通について詳細に説明があった。また,従来のNMR装置は一定期間でヘリウムの充填が必要であり,装置が多くなるとメンテナンス作業が負担となってしまう。バルクNMRはヘリウムの問題を解決するとともに,小型・運搬可能,磁場の安定性,安全性等,多くのメリットがある。リング状のバルク材を複数個スタックして,さらにテープ線材をスパイラル状に巻くことで,磁場の均一度を高める試みがされている。それらをNMR用のマグネットで励磁することにより,バルクNMRが実現される。さらに,プローブにも多くの工夫がされていることも紹介された。
「超電導バルク材の回転機応用と着磁技術」井田氏(海洋大) 東京海洋大学について紹介があった後,風力発電や潮流発電等の超伝導技術の実用化の可能性について説明があった。その中で,電気推進船の超伝導化のメリット等が紹介され,アキシャル型及びラジアル型の設計概要について説明があり,回転試験の結果が示された。モータの着磁は,構造上,磁場中冷却は不可能であり,パルス着磁限定となる。パルス着磁で強磁場を発生させるには様々な手法が提案されているが,パルスフォーミングネットワーク着磁回路による波形制御パルス着磁を考案し,その有効性を示した。
「冷凍機を使ったバルク磁石の性質と応用」岡氏(芝浦工大) バルク磁石の応用の一つとして,永久磁石やIPMモータ回転子の着磁について紹介された。76×50 mm2の未着磁のネオジム磁石に対して,バルク磁石をスキャンして着磁する手法や,スタンプ状に着磁する手法が紹介された。スキャン着磁では,磁石板に文字を書くことができることが紹介された。モータのロータに埋め込まれた磁石の着磁について実験及び数値解析が行われ,複数個ある全磁石で飽和磁化に達するとともに,極数が増えると隣接する磁石に影響があることを示した。
 最後の講演は,内藤氏(岩手大)より,バルク材夏の学校で毎回開催している学生向けの基礎講座「超伝導の基礎~磁場中の性質~」の講義があった。完全導電性,完全反磁性,磁束の量子化,ジョセフソン効果,磁束のピン止め効果等の基礎的な内容から,相転移や磁束格子等の詳細な内容まで詳しく解説された。
 すべての講演が終了した後,材料研究会の副委員長である淡路氏(東北大)より,本会を総括していただき,閉会の挨拶があった。

 2日間で11件の講演があり,バルク材の基礎・材料・応用,そして最新の動向を勉強することができた。また,学生及び一般・教員を含めて深く交流することができ,充実した研究会及びバルク材夏の学校となった。

 

 

(足利大 横山)


令和元年度 東北・北海道支部研究会 第3回材料研究会合同 & 第18回高温超伝導バルク材「夏の学校」のご案内

テーマ
超伝導バルク体の産業応用に向けた最新の動向
日 時
2019年 8月 19日(月) ~ 20日(火)
会 場
伊東園ホテルニューさくら https://www.itoenhotel.com/newsakura/
主 催
低温工学・超電導学会 東北・北海道支部
プログラム
【1日目】8月19日(月)
 
12:30
12:40
 
開会の挨拶
東北・北海道支部長
 
12:40
13:20
 
高温超電導バルクの基礎と応用
村上雅人(芝浦工大)
 
13:20
14:00
 
超電導バルク(QMG)における材料開発とその応用
成木紳也(日本製鉄)
 
14:00
14:40
 
多結晶型超伝導バルク材の組織制御と応用に向けた課題
山本明保(農工大)
 
14:40
14:50
 
休憩
 
14:50
15:30
 
超電導バルク体と超電導コイルによる磁気軸受のフライホイール蓄電装置への応用
長嶋 賢(鉄道総研)
 
15:30
16:10
 
超電導材料を用いた電気モータの輸送機器への応用
寺尾 悠(東大)
 
16:10
16:50
 
超電導バルク体を用いた磁気浮上応用システムの開発
佐々木修平(八戸高専)
 
16:50
17:00
 
休憩
 
17:00
18:00
 
大学院生及び参加者による研究紹介
(各研究室・組織毎に質疑応答を含め10分)
 
18:30
20:30
 
夕食(懇親会)
 
【2日目】8月20日(火)
 
9:00
9:40
 
特別講演「超伝導磁気浮上工具を用いた研磨技術」
小田部荘司(九工大)
 
9:40
10:20
 
高騰するヘリウム時代の無冷媒バルク超電導NMR磁石のインパクト
仲村高志(理研)
 
10:20
10:35
 
休憩
 
10:35
11:15
 
超電導バルク材の回転機応用と着磁技術
井田徹哉(海洋大)
 
11:15
11:55
 
冷凍機を使ったバルク磁石の性質と応用
岡 徹雄(芝浦工大)
 
11:55
12:25
 
基礎講座「高温超伝導体の磁束状態」
内藤智之(岩手大)
 
12:25
12:30
 
閉会の挨拶
材料研究会
参加費
 2,000円(資料代)
宿泊
12,000円(1泊2食)(予定)
交通
鬼怒川温泉駅から徒歩10分、伊東園ホテルニューさくらHP(https://www.itoenhotel.com/newsakura/)参照
オーガナイザー
横山和哉(足利大),内藤智之(岩手大)
申込方法
参加を希望される方は、氏名、所属、<宿泊><懇親会>の有・無 を添えて7月31日(水)までにE-mailで下記へお申し込みください。
申込・問合せ先
足利大学 横山和哉 E-mail: k-yokoyama [@] ashitech.ac.jp  Tel/Fax: 0284-22-5651
備考
講義演題は若干変更になる場合があります。