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平成 30 年度 東北・北海道支部/第1回材料研究会 合同シンポジウム (東北・北海道支部だより)

今年度の東北・北海道支部研究会と第3回材料研究会の合同シンポジウムが2018年8月7日(火)~8日(水)の2日間に渡って岩手県盛岡市繋温泉「ホテル大観」で開催された。参加者は、講師7名に加えて、大学および企業から7名、大学院生2名、の計16名であった。今回は、超伝導体の強磁場応用に不可欠な「補強技術と機械的特性」を共通テーマとした。対象となる材料として、従来型および高温超伝導線材にバルクが加わることで幅広い組み合わせのプログラムとなった。それぞれの分野でご活躍中の研究者を講師としてお招きし,最新の研究成果をご講演いただいた。

 初日(7日午後)は、藤代支部長の開会挨拶の後、4件の講演があった。前半の2件は加速器と核融合炉という大規模施設で用いられる超伝導電磁石に関する講演、後半の2件は、各種超伝導線材の機械的特性に関する講演であった。 菅野未知央 氏(高エネルギー加速器研究機構)は、「加速器超伝導磁石の機械設計」と題し、CERN-LHC加速器で進行中の国際共同による高輝度化アップグレード計画における超伝導電磁石の開発状況について講演した。現状の2倍上となる口径150mmの超伝導電磁石が必要とされるが、大型化にともない冷却や励磁による寸法変化が大きくなる。そのため、所望の磁場強度・精度を実現するためには、シミュレーションやプロトタイプの実測に基づく予備応力の精密な制御が重要であるとのことであった。 宇藤裕康氏(量子科学技術研究開発機構)は、「核融合原型炉の超伝導コイル設計の現状」と題して、核融合燃焼の実証炉ITERの先にある、核融合発電の実用化に向けた原型炉で用いられる超伝導電磁石開発について講演した。設計方針としてはITERで得られた知見を最大限生かす(技術的飛躍を最小限に留める)とのことであった。そのため、Nb3Sn線材の使用が想定されているが、プラズマ閉じ込め性能維持と炉の小型化の観点から高温超伝導線材の利用も考えているようである。また、設計上の最大応力800MPaに耐える高強度低温鋼(0.2%耐力1200MPa)の開発も進めており、高圧水素用材料が検討されているとのことであった。 小黒英俊 氏(東海大学)は、「超伝導材料の実用性と機械特性」と題して、実用化されている全ての超伝導線材の機械特性をレビューした。NbTiでは撚り線構造にすることで機械特性が向上することやYBCOコート線材の剥離の問題はコイル製作に関する技術(剥離方向に力が働かない絶縁材開発や線材同士を固定しない)によって克服されていることが示された。また、コート線材の欠点を克服すべくPIT法によるYBCO丸線材の開発に着手しており、その現状についての紹介があった。 町屋修太郎 氏(大同大学)は、「X線と中性子を用いた超電導線材のひずみ評価」と題し、量子ビームによって非破壊かつ非接触で測定した超伝導線材の残留歪み(残留応力)について紹介した。銀シースBi2223線材やYBCOコート線材のような複合材であっても中性子飛行時間法を用いることで構成部材それぞれの応力-歪み状態が測定できることや中性子の高い透過能によりケーブル・イン・コンジット導体内の超伝導相の残留歪み(性能低下の原因)を直接測定可能であることが示された。

二日目(8日午前)は3件の講演があった。 1件目は九州・西日本支部との交流による特別講演として、東川甲平 氏(九州大学)が「高度評価技術から展開する次世代超伝導電力応用に関する研究」と題して講演した。実験とシミュレーションを組み合わせたハードウェア閉ループ法により、超伝導電力機器を実電力系統への導入したときの現象を実験室レベルで実証可能であることが示された。また、Khalifa University of Science and Technology(アブダビ)との超伝導ケーブル導入時の電力系統解析に関する共同研究についての紹介があった。最後に、NEDOプロジェクト「超伝導ケーブルによる次世代エネルギーネットワーク」について紹介した。超伝導ケーブル自体をエネルギー貯蔵源とする新しいアイディア(上記のハードウェア閉ループ法で実証済)により、出力変動の激しい再生可能エネルギーの利用に対する制限が根本的に解決できることが示された。  藤代博之 氏(岩手大学)は、「超電導バルクの強磁場着磁における応力解析と補強の最適化」と題して講演した。超伝導バルクの着磁過程における電磁界・温度・機械的応力を有限要素法によるシミュレーションから明らかにし、現在開発中の卓上型NMR装置に内蔵されるバルク磁石積層ユニットや20テスラ級着磁に向けたバルクに対する最適な補強方法を紹介した。また、2つの超伝導バルクを組み合わせた、新しいハイブリット型磁気レンズについての紹介もあった。  金新哲 氏(室蘭工業大学)は、「溶融バルク成長法を用いた高強度接合による無限長高温超電導線材の実現可能性について」と題して講演した。GdBCOコート線材をYbBCO溶融バルク、銀シースBi2223線材を露出させたBi2223同士の部分溶融によって、それぞれ接合させた。得られた接合の77K(無負荷)での臨界電流(Ic)はいずれも約15Aであり、コイル内部に導入するためには接合部を増やすなどしてIcを向上させる必要があるとのことであった。一方、引張強度は半田接合よりも高く固定治具が不要であることからスペース面で有利であることが示された。 最後に、淡路材料研究会副委員長から本シンポジウムの総括と閉会の挨拶があった。

  これまで、東北・北海道支部研究会(材料研究会と共催)は東北各地の夏祭りに合わせて開催してきました。今年は盛岡ということで、さんさ踊り期間中(8/1-4)に開催したいところでしたが都合がつかず断念しました。そのせいか?、参加人数は例年より少なめでしたが、各講演では議論が活発に行われ盛り上がりました。夕食会や有志によるナイトセッションも様々な話題で盛り上がり、新しい人的ネットワークが出来たと思います。最後に、突然のお願いにも関わらず快く講演を引き受けて頂いた講師の皆様、研究会にご参加いただいた皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

 

参加者全員の集合写真。

 

(岩手大学 内藤智之)


平成 30 年度 東北・北海道支部/第3回材料研究会合同シンポジウムのご案内

テーマ
超伝導体の強磁場応用と補強技術・機械的特性
日 時
2018年 8月 7日(火) ~ 8日(水)
会 場
繋温泉ホテル大観(岩手県盛岡市繋湯ノ舘37−1)http://www.hotel-taikan.com/
主 催
低温工学・超電導学会 東北・北海道支部
プログラム
【1日目】8月7日(火)
 
13:30
13:35
 
開会の挨拶
東北・北海道支部長
 
13:35
14:25
 
加速器超伝導磁石の機械設計
菅野未知央(高エネ研)
 
14:25
15:15
 
核融合原型炉の超伝導コイル設計の現状
宇藤裕康(量研機構)
 
15:15
15:30
 
休憩
 
15:30
16:20
 
超伝導線材の実用性と機械特性
小黒英俊(東海大)
 
16:20
17:10
 
X線と中性子を用いた超電導線材のひずみ評価
町屋修太郎(大同大)
 
18:30
20:30
 
夕食(懇親会)
 
【2日目】8月8日(水)
 
9:00
9:50
 
「九州・西日本支部との交流による特別講演」
高度評価技術から展開する次世代超伝導電力応用に関する研究

東川甲平(九州大)
 
9:50
10:40
 
超電導バルクの強磁場着磁における応力解析と補強の最適化
藤代博之(岩手大)
 
10:40
11:00
 
休憩
 
11:00
11:50
 
溶融バルク成長法を用いた高強度接合による無限長高温超電導線材の実現可能性について

金 新哲(室蘭工大)
 
11:50
12:00
 
閉会の挨拶
材料研究会副委員長
参加費
 2,000円(資料代)
宿泊
13,000円(1泊2食)(予定)
交通
盛岡駅から無料送迎有、繋温泉ホテル大観HP(http://www.hotel-taikan.com/access/)参照
オーガナイザー
内藤智之(岩手大)、淡路 智(東北大)
申込方法
参加を希望される方は、氏名、所属、<宿泊><懇親会>の有・無 を添えて7月6日(金)までにE-mailで下記へお申し込みください。
申込・問合せ先
岩手大学 内藤智之 E-mail: tnaito [@] iwate-u.ac.jp  Tel/Fax: 019-621-6362
備考
講義演題は若干変更になる場合があります。