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平成 27 年度 材料研究会/東北・北海道支部合同研究会 東北・北海道支部だより

 2015年度 東北・北海道支部研究会/第2回材料研究会/第2回超電導応用研究会合同シンポジウム・見学会が2015年8月5日(水)~6日(木)にヒルズサンピア山形にて開催された。今年度は、東北・北海道支部と材料研究会及び超電導応用研究会との合同研究会であり、今回は材料と応用の両方の観点から「医療用超伝導マグネットと超伝導材料」をテーマとし、7件の講演を行った。さらに見学会として、山形大にて採択され計画が進行中である重粒子線がん治療装置研究棟の見学を行った。参加者は講師含め26名であった。

 1日目は、北支部長の挨拶の後、主に医療用マグネット応用に関する講演が4件行われた。最初に、岩井岳夫氏(山形大)により「山形大学における重粒子線がん治療施設プロジェクト」と題して、山形大で始まった重粒子線がん治療施設建設計画について講演いただいた。重粒子線によるがん治療は放射線治療の一つであり、炭素イオンを加速器により加速して患部に打ち込む方法で、通常の放射線治療と比べて、がん細胞だけに照射できるため、最近急速に普及してきた治療法のひとつである。装置は、炭素イオンを加速するための加速器とこれを患部に当てるためのガントリーから構成され、費用もサイズも大型になるという問題点がある。現在日本では4箇所にあるが、東北にはまだ一台も無く山形大が東北第1号であり、東北地方の重粒子線治療の拠点とする計画である。加速器は常伝導磁石を用いるが、ガントリーには超伝導マグネットを用いることが特徴となっている。超伝導ガントリーは現在放医研で建設中で、山形大は2号機となるとのことであった。2件目以降は主に高温超伝導材料を用いた医療用マグネットに関する講演であった。石山敦士氏(早稲田大)は、「医療用高温超伝導マグネット開発における課題」と題して、高温超伝導マグネット開発における共通課題について解説した。高温超伝導マグネット開発には、高強度・高電流密度・高磁場・高(磁場)安定性・高熱的安定性の5つのHigh(5H)が重要とし、それぞれの機能について新しい技術を交えて説明した。特に、現状の設計では臨界電流では無く、応力によって磁場が制限されることが多いことから、臨界電流向上が本当に必要かどうか議論すべきとの意見を述べた。この点に関しては、賛否両論あるが応用上の問題点の一つとして捉えるべきであり、臨界電流を抑えた低コスト線材という選択枝は重要であるとの意見もある。3番目は、戸坂泰造氏(東芝)が「高磁場MRI用高温超電導磁石の開発」と題する講演を行った。現在、日本医療開発機構 (AMED)のプロジェクト「高磁場コイルシステムの研究開発」の一環として実施している、10T級高温超伝導MRIコイル開発に関して、線材剥離・遮蔽電流・コイル保護の問題について東芝の取り組みを述べた。エポキシ含浸を用いるコイルにおいて線材剥離問題は深刻であるが、コイルを分割することで解決でき、コイル温度を詳細にモニタすることで熱暴走検出を実施する方法について説明した。また、エポキシ含浸無絶縁コイルを作製し、エポキシ含浸でも無絶縁による自己保護機能が有効であることが確認できたと報告した。次に横山彰一氏(三菱電機)は「三菱電機における医療用超伝導マグネット開発」について講演した。三菱電機では、MRI用マグネット開発の他、重粒子線加速器用偏向電磁石の開発を実施してきた経緯があり、高温超伝導材料を用いた無冷媒型?安定磁界高温超伝導コイルシステム開発として、3T-MRIの開発を行っている。このコイルでは希土類超伝導(REBa2Cu3Oy: RE123, RE は希土類元素)テープを用いているが、フッ素コートポリイミッドテープを用いて剥離対策を施し、ハンダ接続の接続長を長くとることで10-7W以下の接続抵抗を実現している。
この手法で、内径320mm、1.72ppm/100mm球のマグネット設計を実施した。また、電源駆動を予定してるため、用いる高安定化電源の開発も実施し、1ppm/hrの安定度を達成したとした。医療用加速器マグネットとしては、交流損失を考慮して多段エネルギ出射方式という階段状の磁場発生を想定して、中心磁場3Tの400mm x 200mmの内周を有するレーストラックコイルの設計を実施しているとした。
1日目の講演はこれで終了し、急ぎ足の夕食後バスで花笠祭り会場に移動し、たっぷりと優雅な花笠踊りを堪能した。山形市内のメインストリートは、多くの花笠踊りの団体が順番に踊りを披露した。山形県出身の渡辺えり子さんやJリーガーも一緒に踊って練り歩いていたところが印象的だった。お祭りを楽しんだ後には、宿に戻り有志での2次会が行われ、山形の日本酒をたしなみながら超伝導研究についてナイトセッションが行われた。

 2日目は、毎年恒例の西支部との交流による特別講演から始まった。今年は、RE123線材を用いたマグネットが中心だったため、その材料特性評価の第1人者である九州大の木須隆暢氏においで頂き「医療用マグネット応用に向けた高温超伝導線材の評価技術開発と線材性能の向上」と題する講演を行っていただいた。講演では、現在開発されているRE123長尺線材の特性向上の現状だけでなく、特性の分布やその起源について解説を行った。特性向上としては、Euを用い、人工ピンとしてBaHfO3ナノロッドを導入することで、液体窒素温度応用が視野に入って来つつあるとした。また均一性については、各種スキャンニング技術とマイクロCTなどを併用することで、定量的な評価をすることが可能となり、Jc分布は1/fに従うことが分かってきたと説明した。特に、統計的な解析を行うことで、10-5程度の確率でJcが2-3割低い部分が存在する可能性について言及し、超伝導応用機器設計にはこの点を考慮すべきと述べた。岡 徹雄氏(新潟大)は「RE123超伝導バルクマグネット材料とNMR/MRI応用」と題して、超伝導バルク材料開発とその応用について講演した。RE123バルクを用いた着磁マグネットは、20K近傍で17Tを越える強磁場をトラップすることが可能であり、安価で手軽に用いることのできる高磁場磁石である。これの中心に穴を開けて積層した磁石では、高精度な磁場を着磁することも可能であり、最近、バルク着磁マグネットを用いたMRI画像撮影にも成功していると説明した。常に一定磁場で利用するMRIなどの場合には、大きさの制限があるものの用途によっては有効であり、実際にマウス胎児のMRI画像を評価して50μmの空間分解能を得ている。また、NMR用としても、磁性体による補正により、4mm四方の面内で358 ppmの均一度を得ることにも成功している。さらに、別の医療用途として薬剤移送システム(MDDS)を紹介した。こちらはバルク磁石の大きな磁場と磁場勾配を用いて磁化させた薬剤を患部に集める方法で、新しい治療方法として研究されているとのことである。用いる材料については、強磁場についてはRE123材料が主流であるが、MgB2バルクの研究も最近精力的に行われているとのことである。内藤智之氏(岩手大)は「MgB2 超伝導バルク磁石開発の現状と課題」と題し、MgB2バルク材料開発の現状について講演した。まず最初に、着磁方法として磁場中冷却とパルス着磁の違いについて説明した後、MgB2バルク材料について解説した。MgB2は、RE123とは異なり焼結法によって作製できるため大型化が容易であると考えられる。しかし、その臨界電流密度や不可逆磁場は不十分であり、バルクの高密度化(緻密化)と高臨界電流密度化が課題となっている。Spark Plasma Sintering (SPS)法や、HIP処理などによって密度を向上させるとともに、添加元素によって磁束ピン止め点を導入することでトラップ磁場の向上が見られる点について、研究状況を説明した。現在のところMgB2バルクによるトラップ磁場は、5Tが世界最高とのことである。
 講演終了後昼食を食べた後に、山形大学重粒子線がん治療装置研究棟へと移動し、見学会が行われた。施設はこれから建設とのことで、現在は加速器やガントリーのテストモデルが置かれた仮設の建物だったが、加速器そのもの入札がまさに行われている最中とのことであった。常伝導加速器と超伝導ガントリーの一部が設置されており、その全体像が想像できる見学会であった。特に超伝導ガントリーには、重粒子線の形状を調整するための3次元スキャンニングが用いられるとのことで、そのためのマグネットの構造など参加者は興味津々であった。開催された両日とも非常に暑い日となり、バスから見学会の建屋までの短い間にも汗が噴き出すほどだったが、有意義な研究会と見学会であった。特に、リニアやMRIに加えて超伝導応用機器の普及が目に見える形でそこにあることの重要性を感じた会合だった。

 
研究会会場前で撮影した集合写真。
 
見学会の様子。説明されている岩井先生(左上)と参加者。
後ろに加速器用マグネット等が並んでいる。
(東北大学 淡路 智)


平成 27 年度 東北・北海道支部研究会/第2回材料研究会/第2回超電導応用研究会
合同シンポジウム・見学会のご案内

 東北・北海道支部と材料研究会、超電導応用研究会との合同研究会を下記の要項で開催します。今回は、山形大学に設置が進められている重粒子線がん治療施設に関連して、医療用超伝導マグネットに関する超伝導技術というテーマで研究会を企画しました。ちょうど、山形花笠まつりも山形市内で開催されております。また、研究会終了後には山形大の癌治療施設の見学も用意しております。皆様のご参加をお待ちしております。

主 催
(社)低温工学協会 東北・北海道支部
テーマ
医療用超伝導マグネットと超伝導材料
日 時
2015年 8月 5日(水) ~ 6日(木)
会 場
ヒルズサンピア山形(山形県山形市蔵王飯田637)http://www.hills-sunpia.jp/
交 通
8月5日13時 山形駅西口よりバスがでます。
参加費
2,000円(資料代)どなたでも自由に参加できます
プログラム
【1日目】8月2日(火)
 
13:50
13:55
 
開会の挨拶
東北・北海道支部長
 《西支部との交流による特別講演》
 
13:55
14:45
 
高温超伝導材料における臨界電流密度の最適化問題について
松本 要(九工大)
 
14:45
15:25
 
単結晶基板及び金属基板上に作製したナノロッド導入REBCO膜の
Jc向上に関する最新研究
吉田 隆(名大)
 
15:25
15:40
 
休憩
 
15:40
16:20
 
ナノ粒子添加制御によるMOD-REBCO薄膜におけるJc向上(仮)
三浦正志(成蹊大)
 
16:20
17:00
 
Bi2223テープ開発の進展(仮)
北口 仁(NIMS)
 
17:00
17:40
 
組織制御によるMgB2線材の高性能化
熊倉浩明(NIMS)
 
18:30
20:30
 
夕食(懇親会)
 
【2日目】8月3日(水)
 
8:30
 9:20
 
高温超伝導材料応用の将来とポテンシャル
下山淳一(青山学院大)
 
9:20
10:00
 
高圧合成技術を用いた新超伝導物質探索
関根ちひろ(室工大)
 
10:00
10:20
 
休憩
 
10:20
11:00
 
オキシプニクタイド超伝導薄膜の作製と評価
飯田和昌(名大)
 
11:00
11:40
 
鉄系超伝導材料の超伝導と物理特性(仮)
高野義彦(NIMS)
 
11:40
12:20
 
強磁場応用のためのMgB2と鉄系超伝導材料(仮)
山本明保(東京農工大)
 
12:20
12:30
 
閉会の挨拶
材料研究会委員長
宿泊
13,000円(1泊3食)
オーガナイザー
山田博信(山形大)、横山彰一(三菱電機)、中島健介(山形大)、淡路 智(東北大)
申込方法
参加を希望される方は、氏名、所属、<8月5日のバスの利用><宿泊><懇親会><昼食><見学会>の有・無 を添えて7月10日までにE-mailで下記へお申し込みください。
申込・問合せ先
山形大学 山田博信
E-mail: hyamada@yz.yamagata-u.ac.jp  Tel/Fax: 0238-26-3271