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平成 25 年度 材料研究会/東北・北海道支部合同研究会 東北・北海道支部だより

 2013年度東北・北海道支部研究会は、例年通り材料研究会と合同で7月31日から8月1日の2日間に渡って八戸にて開催された。参加人数は、講師9名を含む42名となり、会場いっぱいの盛況となった。今回の研究会は、近年注目されている水素エネルギーと超伝導の融合ということで、「先進超伝導線材を用いた液体水素応用」と題して液体水素から超伝導材料・応用までを広くカバーした内容とし、液体水素における超伝導応用について集中的に議論する場とした。具体的な内容は、液体水素の沸点20Kで利用できるBi系・希土類系・MgB2と言った超伝導材料の現状、液体水素の性質と関連設備、20K近傍の冷凍機の状況などである。各講演内容について簡単にまとめる。
 熊倉氏(NIMS)は、「MgB2線材における最近の進展」と題し、MgB2線材開発の現状についてレビューを行った。MgB2線材はそのconnectivityと充填率が臨界電流密度Jcを決める重要なファクターとして認識されているが、PIT法と高圧プレスを組み合わせた方法や拡散法などの線材を紹介した。現在進行中のJST先端低炭素プロジェクト(JST-ALCA)では5Tで工学的臨界電流密度(臨界電流を全線材断面積で割った値)Je>20000A/cm2が目標となっているとのことである。MgB2線材は、これまでPIT法が主流であったが、最近は拡散法によって高Jc線材ができるようになってきた。MgB2は安いイメージがあるが、実際は高品質なB粉末が必要で値段も高く、線材メーカーでは安いB粉末を自社で高品質化する手法を採用しているとのことである。PIT法から拡散法という作製手法はNb3Snに似てきた感があるとの個人的な印象を受けた。ただし、4.2Kの特性はNb3Snにはかなわないので、あくまで20K応用が主流であるとのことである。
 鈴木氏(東北大)は、「希土類系高温超伝導線材における人工ピンの効果」と題して、希土類系超伝導(RE123)線材におけるナノロッド人工ピンに関するモデルについて講演した。77K近傍の高温領域で、特性の悪いB//c方向のJc特性改善に効果を発揮しているナノロッドは、温度の低下とともにその効果は小さくなるが、これらの振る舞いはランダムピンと相関ピンの共存モデルによって概ね理解することができる。モデルによれば、20K以下の低温でもナノロッドの効果は残っているが、ロッド導入による凝縮エネルギーの低下によりバックグランドとしてのランダムピンの効果が下がることが問題である。低温強磁場特性において最も効果的なのは、マトリックスの超伝導性を落とさずに、高密度(高いマッチング磁場)でナノロッドを入れることが理想であるとした。近年、 77K, B//cの不可逆磁場が15Tを越える結果も数件報告されており今後の展開に期待できる。
 井上氏(九大)は、「希土類系高温超伝導線材の臨界電流特性」と題する講演を行った。本講演は、低温工学九州・西日本支部との交流による特別講演である。講演では、最近優れた人工ピン材料として報告されているBaHfO3(BHO)の効果について、BHOを含まない線材と比較して広い温度・磁場範囲で高いJc特性が得られていることを、詳細な実験結果とともに示した。特にBHO添加は、人工ピンとしての効果に加えて、厚膜化した場合のJc低下が非常に少ないので、厚膜化にも貢献できる。RE123線材は、線材厚さと比較して超伝導層の厚みが非常に小さいので、Je向上のためには超伝導層の厚膜化が有効であるとした。また、Jcだけで無く、n値など電界?電流密度(E-J)特性の評価と定式化の重要性を示し、パーコレーションモデルによって説明可能であることを示した。
 新冨氏(日大)は、「自然エネルギー有効利用のための先進超伝導電力変換システム用SMES」と題して、液体水素と超伝導機器を組み合わせた先進超伝導電力変換システム(Advanced Superconducting Power Conditioning System: ASPCS)について説明した。このシステムでは、出力変動の大きい自然エネルギー(ここでは風力発電を想定)と、その長時間・短時間変動を補償する液体水素ステーション・燃料電池・SMES等を組み合わせたもので、電力変換効率は70%を超える場合がある。SMESとしてはMgB2を想定し、冷却には液体水素ステーションの冷熱を活用する。余剰電力は燃料電池や液体水素・SMESとして貯蔵し、これらの応答時間からSMESの容量を計算すると、10秒で40MJ、60秒では80MJとなり、50MJと100MJ規模のSMESが必要となる。MgB2線材を用いてそれぞれのSMESを設計した場合、マルチポール配置とトロイド配置の両方の設計例を示し、今後のMgB2の性能向上が装置のコンパクト化に有効であると述べた。
 辻上氏(岩谷産業)は、「岩谷産業中央研究所の実験設備ついて」と題して、岩谷産業の液体水素事業への取り組みとして、兵庫県尼崎市にある中央研究所の設備等について紹介した。岩谷産業の中央研究所には、液体水素関連設備のほか、レンタルラボとして実験装置とスペースを貸し出し共同研究を進める体制が整っているとのこと。液体水素を用いた実験環境についても、高圧ガス保安法にのっとって実施できる体制にあるとのことである。
 大平氏(東北大)は、「水素エネルギーシステム開発における液体水素技術の現状」と題して、寒剤としてのスラッシュ(窒素、水素)の熱特性と流体特性について解説した。スラッシュは固体微粒子の混ざった流体であるが、液体と比較して、限界熱流束が向上する一方で熱伝達係数が小さくなる性質がある。また流体としての性質では、コルゲート管などの圧力損失を低減する効果があるとのことである。電力ケーブルのなどの冷却にスラッシュ液体を用いる利点があると説明した。
 白井氏(京大)は、「高温超電導線材の液体水素冷却特性実験」と題して、冷媒としての液体水素の性質について紹介した。液体水素は、潜熱が大きく密度が小さいことが特徴であり、冷媒として優れている。JAXAの能代試験場に液体水素を用いた実験設備があり、液体水素中で熱伝達特性、臨界電流測定などが、5T以下の磁場中で実施できる装置を導入した。クライオスタットの最大圧力は2.1MPaで、試料スペースは308mm、通電電流は最大で500Aとのことである。これを利用し、MgB2単芯線の通電試験や、Bi2223単層コイル試験などの結果について紹介した。得られた結果から実際の線材の熱伝達特性が評価できるとのことである。
 平野氏(中電)は、 「能力可変20K小型冷凍機の開発」と題して、SMESの現状について解説した後、冷凍機の冷凍能力制御について紹介した。2003年よりシャープ亀山工場で稼働している10MJ-SMESは、これまで40回以上の瞬低補償を行い、現在も稼働中とのこと。その消費電力は、冷凍機40kW, 変換器待機損失100kW、補機動力40kWを合わせて待機時損失180kWとなっている。従って、5MWの出力に対し待機電力が3.6%と、以外と待機電力が小さいと説明した。しかし、この待機電力を下げるためには、冷凍機の能力を可変にすることが重要で、それが冷凍能力可変冷凍機開発の動機となっている。SMES仕様シールド用175W@65K冷凍機では、周波数を30Hzから100Hzまで変化させることで、冷凍能力は100W-200Wまで可変でき、そのときの消費電力は30Hzで3.5kWと60Hzの7.5kWと比べて約63%まで低減できることが実証できた。さらにこの冷凍機は、冷凍能力による温度制御回路が備わっており、これによりSMES動作時の熱負荷変動による温度変化も補償できることも実証した。
 林氏(住電)は、「Bi系高温超電導線材とマグネット開発の現状」と題して、住友電工におけるBi2223線材の開発状況からその応用まで広く紹介した。特に、Bi2223線材の最近の性能向上はめざましく、高圧酸素処理によるJc特性の大幅向上、補強材との複合化及び残留圧縮応力による高強度化、酸素濃度制御による特性制御などの取り組みについて紹介した。高強度線では、補強材料をうまく使うことで、最大600MPaまでの引っ張り応力まで利用できる見込みとのことである。また77K近傍と20K以下の低温での最適キャリア濃度が違うことを指摘、高温応用では最適ドープ、低温応用ではオーバードープが優れていて、ドープ量を変えることで線材の特性制御が可能となっているとした。これまでの応用実績としては、電力ケーブルの他、船舶モーター、アルミ加熱、電流リードなどにすでに利用されつつあるとのこと。またマグネットも高速消励磁が可能な利点を生かして、ネオジウム磁石の評価用としてニーズがあると説明した。
 初日夜は懇親会を兼ねた夕食では、NHK朝のドラマで有名となった三陸産の殻付きウニを堪能し、その後、街に繰り出し八戸三社大祭の前夜祭を満喫し、またホテルに戻って有志による2次会まで楽しんだ。八戸三社大祭は前夜祭のため、山車の練り歩く姿は見ることができなかったが、町中に飾られた幻想的な山車とその前で行われていたお囃子の音を楽しんだ一夜となった。低温工学協会東北北海道支部では、毎年東北のお祭りに合わせた研究会を開催しておりますので来年もご期待下さい。
 本研究会の発表資料は、講演内容をわかりやすくまとめて頂いたものです。御希望の方には販売致しますので、低温工学・超電導学会(TEL: 03-3818-4539 , e-mail: LDJ04246@nifty.com)までお問い合わせください。

 
研究会の様子。講師は物材機構の熊倉氏
 
(東北大学:淡路 智)


平成 25 年度 東北北海道支部研究会/第2回材料研究会のご案内

主 催
(社)低温工学協会 東北・北海道支部
テーマ
先進超伝導線材を用いた液体水素応用
日 時
2013年7月31日(水)13:30 ~ 8月1日(木)12:10
会 場
グランドサンピア八戸 〒039-1111 青森県八戸市東白山台1丁目1-1 URL:http://www.sunpiahachinohe.jp
イベント
八戸三社大祭(http://www.city.hachinohe.aomori.jp/kanko/festival/sansya/
八戸三社祭りは、およそ290年の歴史と伝統を誇る八戸地方最大のお祭りで、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
参加費
2,000円(資料代)どなたでも自由に参加できます
プログラム
【1日目】7月31日(水)
 
13:30
13:40
 
開会の挨拶
東北・北海道支部長
 
13:40
14:10
 
「MgB2線材開発(仮題)」
熊倉浩明 氏(物材機構)
 
14:10
14:40
 
「希土類系高温超伝導線材における人工ピンの効果」
鈴木 匠 氏(東北大)
 
14:40
15:10
 
《九州・西日本支部との交流による特別講演》
「希土類系高温超伝導線材の臨界電流特性」

井上昌睦 氏(九大)
 
15:10
15:30
 
休憩
 
 
15:30
16:00
 
「自然エネルギー有効利用のための先進超伝導電力変換システム用SMES」
新冨孝和 氏(日大)
 
16:00
16:40
 
「岩谷産業中央研究所の実験設備について」
辻上博司(岩谷産業)
 《初日講演終了後、懇親会と八戸三社大祭鑑賞を予定しています。》
 
【2日目】8月1日(木)
 
9:00
9:30
 
「水素エネルギーシステム開発における液体水素技術の現状」
大平勝秀 氏(東北大)
 
9:30
10:00
 
「高温超電導線材の液体水素冷却特性実験」
白井康之 氏(京大)
 
10:00
10:30
 
休憩
 
 
10:30
11:00
 
「能力可変20K小型冷凍機の開発」
平野直樹 氏(中部電力)
 
11:00
11:30
 
「Bi系高温超電導線材とマグネット開発の現状」
林 和彦 氏(住友電工)
 
11:30
11:40
 
閉会の挨拶
材料研究会委員長
宿泊
1泊朝食・懇親会費込み:一般15,000円、学生14,000円
オーガナイザー
濱島高太郎(八戸工大)、津田 理(東北大)、淡路 智(東北大)
申込方法
宿泊を希望される方は7月1日までE-mailで下記へお申し込みください。
参加のみの方は7月20日までにお申し込みください。
申込・問合せ先
東北大学金属材料研究所 淡路 智
TEL : 022-215-2151/ E-mail : awaji@imr.tohoku.ac.jp