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平成 22 年度 材料研究会/東北・北海道支部合同研究会 東北・北海道支部だより

テーマ
「超電導バルク開発の進展と応用展開」
日 時
2010年9月9日(木) ~ 10日(金)
会 場
「みさきプレステージリゾート」 福島県いわき市小名浜下神白字大作9
プログラム
【1日目】9月9日(木)
 
14:00
14:05
 
開会の挨拶
 
14:05
14:20
 
「イノベーションを目指した超電導開発」
村上雅人(芝浦工大)
 
14:20
15:00
 
「高温超電導バルク材料の研究開発の現状と最近の進展」
手嶋英一(新日鐵)
 
15:00
15:40
 
希土類系酸化物超電導バルク体の機械的特性と破壊機構
藤本浩之(鉄道総研)
 
15:40
15:50
 
休憩
 
 
15:50
16:30
 
RE123材料における化学と高機能化指針
 
16:30
18:00
 
大学院生、一般参加者による研究紹介・話題提供(ショートプレゼンテーション)
 
18:30
20:30
 
懇親会
 
【2日目】9月10日(金)
 
9:00
9:40
 
〔特別講演〕「超電導体の交流損失概論」
柁川一弘(九州大学)
 
9:40
10:00
 
「バルク超電導体を用いた非接触搬送における分岐機構」
鈴木晴彦(福島高専)
 
10:00
10:20
 
休憩
 
 
10:20
11:00
 
「バルク超電導体を用いた磁気浮上系の非線形振動」
杉浦壽彦(慶応大)
 
11:00
11:40
 
「3次元磁気浮上と小型NMR用マグネット」
金 錫範(岡山大)
 
11:40
11:50
 
閉会の挨拶

 2010年9月9日(木)~10日(金)、2010年度「東北・北海道支部研究会」、「材料研究会」および、「バルク夏の学校」との合同研究会が、福島県いわき市の「みさきプレステージリゾート」において開催された。参加者総数は55名、その内26名の学生参加があった。今回の合同研究会は「超電導バルク開発の進展と応用展開」をテーマに、初日には「バルク材料開発」を中心に4件の講演と学生参加者による研究紹介(ショートプレゼンテーション)、2日目には、特別講演と「バルク材応用」を中心に4件の講演が行われた。
 9月9日(木)の初日、まず、東北・北海道支部支部長の東北大学・渡辺和雄氏により開会の挨拶があり、東北・北海道支部のこれまでの活動や本合同研究会の趣旨について紹介があった。そして最初の講演として、バルク夏の学校の校長である芝浦工業大学の村上雅人氏より、「イノベーションを目指したバルク超電導開発」についての発表があり、浮上応用においては、価格と材料性能という観点からのコストダウンが必要であること。また、超電導磁石の応用として、軟骨再生技術などが紹介されたが、ある程度のコストを覚悟した上で、そのコストに見合う応用であれば、真のイノベーションにつながる可能性があることを示唆していた。結論としては、超電導応用技術のイノベーションには、技術の優位性だけでなく、コスト低減や専門家以外の一般人の使いやすさへの配慮も必要であるとの発表があった。
新日鐵の手嶋英一氏からは、「高温超電導バルク材料の研究開発の現状と最近の進展」と題し、RE系高温超電導バルク材料の「高特性化」、「サンプルサイズの大型化」、「用途固有の要求性能への適用」、「利用技術」について発表があり、高特性化にはマクロ的な捕捉磁場の評価が重要であること。大型化では、RE元素組成勾配法によるΦ150mm級バルク材の紹介がされた。また、利用という点において、バルクNMRなどの用途に適したバルク材の開発、金属リングでの補強技術、形状加工ではマルチワイヤーソーによるスライス切断、サンドブラストによる精密加工などが紹介され、応用開発と連携した材料開発がバルク応用の早期実用化へつながるとの発表があった。
 鉄道総研の藤本浩之氏からは、「希土類系酸化物バルク体の機械的特性と破壊機構」についての発表があり、特にボイド密度が低い、電磁気的特性の優れたGd系超伝導バルク体試料における曲げ強度、ヤング率などの評価による、機械的特性向上の可能性について発表があった。高信頼性や高均質性が要求される応用では、ボイドが少ない材料が要求され、バルク体の機械的特性向上や機械的特性の把握・評価の深度が不可欠であるとの発表があった。
 東京大学の下山淳一氏からは、「RE123材料における化学と高機能化指針」に関する講演があり、RE123は既に様々な用途に利用されているが、材料特性の改善の余地が大きく、改善指針を再検討する時期に至っており、そのためRE123の長所と短所を新しいデータを加えながら、高機能化に向けての指針を探る必要があると発表された。その一例に、金属組成を定比(1:2:3)に近づける積極的なプロセスとして、酸素アニール以前に行う金属組成制御のためのポストアニールの導入が挙げられた。また、微量なピンの積極的導入として、微量元素置換や微少超伝導粒子の導入効果についての紹介がされた。
 そして、初日の最後には、参加学生(東京大学、芝浦工大、東北大学、東洋海洋大、足利工大、京大、岩手大、福島高専)による研究紹介がショートプレゼンテーションによって行われた。各研究室における最新の取り組みが紹介されたものと思われる。
 9月10日(金)研究会の2日目、まず、九州大学の柁川一弘氏による「超電導体の交流損失概論」と題した特別講演が行われた。電磁気現象を上手く利用した電力機器や産業用電気機器などに超電導技術を適用すると、高電流密度・強磁界化により、小型軽量化が可能であり、低損失による高効率化が期待される。そこで、超電導体の交流損失に関する初歩的な理解をするために、交流損失に影響を与える要因、交流損失の評価に際しての基礎的な表式の分類と整理、そして、交流損失の低減化などについて、参加する学生にもわかりやすい内容で紹介された。
 次に、バルク超電導体の応用事例として、福島高専の鈴木晴彦氏より、「バルク超電導体を用いた非接触搬送における分岐機構」と題する講演があり、磁束のピン留め効果を用いた非接触磁気支持搬送モデルにおいて、永久磁石軌道の磁場分布を制御することによる非接触分岐機構の国内外における研究事例が紹介され、また、Halbach配列永久磁石軌道による非接触分岐機構の初期実験に関する取り組みが紹介された。
 続いて、慶応技術大学の杉浦壽彦氏より、「バルク超電導体を用いた磁気浮上系の非線形振動」と題する講演があり、高温超電導バルク材の磁束のピン止め力による磁気支持を利用した、低減衰の機器における支持磁気力の非線形性に起因して発生する、多自由度系特有の非線形振動現象の例についての発表があった。高温超電導磁気浮上システムには、線形予測の範囲外の複雑な非線形振動現象(係数振動、結合共振、内部共振など)が発現しやすいことなどが紹介された。
 研究会最後の講演に、岡山大学の金錫範氏による、「3次元磁気浮上と小型NMR用マグネット」と題する講演があり、バルク超電導体を用いたアクチュエータにおける交流電流制御による新しい電磁石の試作が紹介された。これまでの直流電源のスイッチングによる移動制御では、バルク超電導体のオーバーシュートや速度制御に問題が生じていた。そこで、交流電源による、磁気吸引力や磁気反発力、移動特性の測定を行い、浮上・水平移動が可能であることの発表があった。
 3つの異なる研究会・学校が一堂にして開催された本合同研究会は、それぞれの趣旨を網羅するかたちで開催された。そして、材料の基礎からその応用に至までの諸々の課題に対し、参加者の約半数を占める学生諸君が十分に納得のいく内容で構成されており、よって、多くの研究指針が学生諸君に与えられたものと思われる。また、初日の夜に開催された懇親会でも、研究の若手、ベテランの垣根を越えた有意義な時間が持たれていた。

 
(福島高専 鈴木晴彦)